BOOKS

–1984–

BEDTIME STORIES

OSAMU GOODSマザーグースのキャラクターが、9編の楽しい物語の主人公になった短編小説。
秋山道男さん、鈴木海花さん、林真理子さん、酒井チエさん、
安西水丸さん、秋山猛さん、佐々木克彦さんら豪華な作家陣が参加。
夢の中でも幸せな気分になれる本として、ファンなら誰もが枕元に置いていた本。
原田治さんの素敵な挿絵を掲載。

お台所より愛をこめて オールド・マザーグース/酒井 チエ

–27–

おしまいに

ニューヨークにおります小さな孫から、一昨日わたくしのもとへ手紙が参りました。これまでは名前と絵を描いたカードだけしか受け取ったことがございませんでしたので、このめざましい成長ぶりには主人もわたくしも本当にびっくりさせられたことでした。
Nがひとつ裏返しになっておりました以外には、綴りの間違いはありませんでしたのよ。あら、いやですわ、わたくしそんなに嬉しいそうな顔をしてますかしら。いけませんわね、これではいよいよ本物のおばあさんになってしまいますわ。

この手紙がなんと、チェスの試合をいたしましょうという挑戦状でございました。ロバートは確かに5才になったばかりだと思います。子供に限らず誰でも、またどんなゲイムでも、覚えたてというのは面白くて仕方ないものですわ。

「もう一回」「もう一回だけ」「これが最後」なんて。毎日つかまってお相手をさせられるほうはちょっとつらいのですけれど、でも、あのわくわくした夢中になる気持ちはわたくしにもよく判ります。
ですから勿論この挑戦は受けて立つことにいたしました。「手加減はしませんよ。」と、あの子に電話で言ってやりましたの。
わたくしのチェスの腕前でございますか?なにせ5才の坊やのお相手に選ばれるくらいですから……もうお恥ずかしい限りでございます。


「幸い」なんて申しましたらあのひと気を悪くするでしょうけれど、主人は今朝早く、というよりも暗いうちから鱒釣りに出掛けて行きました。それでわたくしは日曜日の夕方まで、気ままなフィッシャーマンズ・ウィドウという訳なのでございます。
これからひとりで早速ニューヨークまでドライヴをしようかと思いますの。わたくしの白いがちょうさん、エンジンの御機嫌も大変良ろしいようですし。
はいはい分かっておりますとも。パトロール・カーには、いいえスピードには、くれぐれも気をつけて参ります。

では皆様ごきげんよう。最後までわたくしの脱線お料理講座にお付き合い下さいましたことを感謝いたします。またお目にかかれます時をお楽しみ。