BOOKS

–1984–

BEDTIME STORIES

OSAMU GOODSマザーグースのキャラクターが、9編の楽しい物語の主人公になった短編小説。
秋山道男さん、鈴木海花さん、林真理子さん、酒井チエさん、
安西水丸さん、秋山猛さん、佐々木克彦さんら豪華な作家陣が参加。
夢の中でも幸せな気分になれる本として、ファンなら誰もが枕元に置いていた本。
原田治さんの素敵な挿絵を掲載。

お台所より愛をこめて オールド・マザーグース/酒井 チエ

–24–

紅茶はロンドン、探偵さんはロス・アンジェルス

なんですかちょっとお腹がすいて参りませんとこと?わたくし、食べ物のお話をしておりますと、いつもこうなんですの。お行機が悪い子供みたいで、本当にお恥ずかしゅうございます。でもそろそろ三時、ちょうど良い頃ですから、一休みということにいたしましょうか。おいしいお紅茶を入れて差し上げますわ。ちょっとお待ちになっていらしてね、すぐに用意をいたしますから。


お紅茶はフォートナム・アンド・メイスンのロイヤル・ブレンド。ミルク・ティーには何と申しましても、これが一番でございます。
「君はまるで世界中を歩き回って試してきた、とでもいうような顔で断言するんだから」なんて、お紅茶に限らずよくこういう偉そうな言い方をしては、主人に叱られてしまいますの。悪い癖ですわね。
でも、御存知ない方がいらっしゃると、つい自慢したくなるくらいにおいしいというのは本当ですのよ。

先日読みました英国の作家フリーマントルのスパイ小説にも、ロンドンっ子達のごひいきの店として、このフォートナム・アンド・メイスンが出て参りましたわ。チャーリィ・マフィンというおいしそうな名前の、あまり冴えない中年のスパイが活躍するというお話でございました。


でもわたくし、スパイものというのはそれ程好きではありませんの。同じドキドキさせる読み物なら探偵小説の、それもやはりアメリカの都会を舞台にした作品が良ろしゅうございますわね。白状いたしますと、実はわたくし、フィリップ・マーロウにずいぶんとお熱を上げた時期がございましたのよ。フィリップ・マーロウというのはロス・アンジェルスの私立探偵。

チャンドラーの作品に登場する、勿論架空の人物でございますけれど。チャンドラーの書いたものはどれもセンスが良く、人間としての優しさに満ちていますのね。
ミステリーにありがちな、不自然なほのめかしの科白を前もって登場人物に言わせるといったような、安っぽいテクニックを彼は使いません。(よしんば使ったとしても、みえみえの野暮な使い方で読者を馬鹿にするような真似はしないのです。)

また、私立探偵が決してスーパーマン的ではないということも、このシリーズの特徴のひとつでございます。主人公であるフィリップ・マーロウの存在感と魅力が、読者の胸いっぱいに拡がって参りますのも、そのためかと存じます。本当に素敵な探偵さんですわ……。

何度か映画化もされましたけれど、わたくしには主演俳優の選び方がいつもひとつぴんときませんでしたので、とうとう一本も観に行かずじまいですの。そのうちT.V放映でもありましたら、観ることにいたしましょうと思ってはおりますが。


おしゃべりに夢中になっております間に、どうやらお湯が沸いたようでございますね。お茶を入れましょう。

まず、ティー・ポットにお湯を注いで捨て、中を暖めておいてから、お紅茶の葉を入れますの。この時、あなたに一杯わたくしに一杯、そしてティー・ポットにも一杯と、人数分よりもひとさじ多く葉を入れるのがこつとされております。

このポットに、ぐらぐらに湧いたお湯を注いでふたをいたします。さらに上からティー・コーズィー(ポット・カヴァー)を掛けまして、三分から五分間置いておきます。
ティー・コーズィは、お手持ちのポットに合わせて、手作りなさるのも楽しいかと存じます。刺しゅうをほどこしましたり、あらかじめパッチワークをいたしました生地に、綿をはさんでクィルティングをしたりして作ります。無地の布に、クィルティングだけで模様を浮き上がらせるという方法も、とても上品で美しいものでございます。

いえ何もティー・コーズィでなくても、毛糸の帽子でも何でもあり合わせをかぶせておけばそれで構いませんのよ。要するに、ポットのままで置くよりも、さめにくくなれば良ろしい訳なのですから。


さてそれでは、人数分だけ用意しましたティー・カップにミルクを入れておくことにいたしましょう。ミルクは必ずお茶よりも先に入れておきます。
このミルクですが、あらかじめ暖めておくべきだという意見と、冷たいまま入れるのが正しいのだと主張なさる方と二流ございまして………どちらも試してみましたけれど、わたくしには結論を下すことはできませんでした。お相手によって、その都度適当にいたしております。


そろそろポットのお茶も良い頃でしょうか。ミルクを入れておきましたカップに、こうして静かに、香りも味も濃いお紅茶を注ぎます。

さあ、どうぞ召し上がれ。お砂糖はこちらにございますわ。
英国でお茶と申しますと、これはもう絶対にミルク・ティーだと決まっておりますのよ。レモンの薄切りは、冷たいお紅茶にしか入れませんの。

お紅茶に添えますお菓子と申しますと、素朴なビスケットやクッキーが一番でございますね。でも次はわたくし、チーズ・ケイキの作り方など御説明しようかと思っております。おやつにもデザートにも、手作りのチーズ・ケイキは大変おいしゅうございますから。