OSAMUGOODS COMPANY

OSAMU'Sマザーグースのキャラクター達が、9編の楽しい物語の主人公になったスペシャルブック。
ファンなら誰もが枕元に置いていた本、『BEDTIME STORIES』をご紹介します。

バースディ・プレゼント

 佐々木 克彦

P.298-307

あくる日。
授業を終えるとパティは、きのうキャロラインに教えられた通り、キャンパスのはずれにあるベースボール部のロッカー室へ急いだ。
「あの、マイクさん、いらっしゃいますか Is he there?」ドアをノックするとすぐに返事がきて
「誰?Who is there?」上半身、裸の男のコが顔を出した。
「アッ、失礼。女のコか。こんなカッコウでアイ・アム・ソーリイ。男のコの声みたいだったんで…」
「どうせ、私はドラ声の、真っ黒んぼの、お化粧ッ気なしの、山だしの女ですよ。」
パティは心の中でつぶやいた。
「マイクに用なの?待ってね。マイク!マイク!キャプテンったら!!」
キリッとユニホームを着こなした、いかにも精悍そうな長身の男のコがパティの前にあらわれた。

マイクだった。
パティは生まれて初めて、胸になにかが突き刺さったような、ヘンな気持ちを感じた。と同時に胸がドキドキしてきた。心もち、顔が赤くなっているのも感じられた。何も言えなくなってしまった。
「あっ、キミか。ボク、キミ知ってるよ。キャロラインのルームメイトだろ。」

目の前の大男が何を言っているのか、さっぱり耳に入らない。パティはドキドキする胸に手をあてたまま、もう片方の手で手紙を彼に手わたし、サッと逃げるようにそこをあとにした。
「ねぇキミ、これ、何?」
マイクの声が谺(こだま)のようにあとを追ってくる。一目散に駆けた。
何かをふり払うかのように「ダメ」「ダメ」を心の中で叫びながら。
部屋のドアをバタンと閉めて、ベッドに飛び込んだ。顔がまだ火照っているのがわかる。5分。10分。
ようやく動悸が鎮まった頃あいを見計らって、彼女は鏡の前に座ってみた。
そして、じっと自分の顔を眺き込んだ。

その顔はまさに。いつか見た誰かさんのあの感じと全く同じだった。
瞳も、頬も、恋という顔をしていた。

「彼ったらね、『ゴメン、ゴメン、練習が長引いちゃって…』なんて頭をかきながら、やってきたの。有難う、パティ。あなたのおかげで、わたし、彼とデイトできたのよ。ほんとうに有難う、パティ。」
「ううん、いいのよ、そんなこと。友達じゃない。それで?どうしたの?」
「彼ったらね、やっぱり大学へ行ってもベースボールをやりたいんですって。いろいろ話したのよ、わたし達。彼はソーダ水。わたしはストロベリー・パフェ。彼ったら、ゴクゴクってひと口で空にしちゃうの。『汗かくからね』だって。その飲みっぷりが、とっても男らしいの。
それでね、来週の金曜日の学校の創立記念パーティにね、ぜひ一緒に行かないかって、誘われちゃった。
どうしよう。勿論、行くけどもね。何着て行こうかな。皆んなキレイに着飾ってくるでしょうから、負けないようにしないとね。何せ、マイクは全校生徒のアイドルですからね。
あっ、それからね、マイクがね、ぜひパティも一緒にって言ってたわ。『あのコ、可愛いいね』だって、彼、あなたのこと前から知ってたんですって。どうしてかしらね。」

キャロラインはひとりで喋り続けている。デイトの興奮がおさまらないのだ。
消燈時間がすっと前に過ぎた今、パティは暗がりのベットの中でキャロラインの浮かれ話を聞くともなしに聞いている。


設立記念のパーティは終わった。
その夜。
「ねぇ、パティ、体の具合はどう?大丈夫?みんな心配してたわよ。」
「有難う、もう大丈夫。一日寝ていたからだいぶ、気分がよくなったわ。
あしたの朝の礼拝はでられると思うわ。心配かけてゴメンナサイ。パーティ、愉しかったでしょうね。」
「ええ、モチ。ダンス大会があってね。ホラ、知ってるでしょ、2年生のキャサリン。
彼女と3年生のブリックが組んで踊ったんだけど。あのふたり、優勝よ。ひと月も前からふたりで練習していたんですって。当たり前よね、勝つの。
それよりもっと愉しかったのはね、パーティも終わって、帰り道、彼がここまで送ってきてくれたの。
キャンパスを抜けて月の光がおちてくる並木道を彼と歩いたの。ロマンチックだったわ。不思議だったわ、彼と一緒にいるっていうことがよ。だって、あたし、ついこの間まで、彼は遠い遠い存在だったのよ。
だのに今はこうして彼とたったふたりっきりで、ひとつの時間を分けあっているなんて。ほんと不思議ね、ひとのめぐり逢いって。
あの時、あなたが手紙をとどけてくれなかったら。ほんとうに…ほんとうに有難うパティ。あなたがいなかったら、わたし達…。」

わたし達…という言葉を聞いて、パティの目にひと粒、光ものがあらわれた。が、気づかれないように、つくり笑いをひとつ返して、言った。
「いいのよ、キャロライン。わたし、あなたたち、ふたりが仲良くしていると思うと、とても嬉しいの。
いつまでも仲良くね。」
「マイクもあなたのこと、とても心配してたわ。『どうしたの?パティ。どうして来ないの?ひどい病気でもかかったの?』って、それは真剣に心配していたわ。
あのひと私と一緒にいる時でも、他のコのことを気に病むっていう、優しいひとなのね。そういうところが、また、わたし好きなんだけれども…。」

パーティ帰りのキャロラインは、今夜も屈託がない。恋に夢中の常で、世界は自分を中心に回っている。
パティが今夜のパーティに出なかったホントの理由を知るわけもない。

今夜もニューオルリインズの街にはメキシコ湾からの甘い、つややかな風が静かに流れている。
その、爽やかな風が朝までかかってもパティの濡れたピローケースを乾かすことはできなかった。

ー あとがきより ー

マザーグースのうたをテーマに、OSAMU GOODSのキャラクター達が生まれてから、早くも十年近く(サイト編集部注:この本が出版された1984年時点で)たちました。

皆さんに可愛いがっていただいた彼らも、すこしずつ生長したようです。
このたびは、彼らのひとり一人を主人公にして、楽しい物語を書いてもらうことになりました。

たとえば、いつもへいの上から転落ばかりしていた、あのハンプティ・ダンプティは、安西水丸さんのハードボイルド・タッチによって颯爽たるダンディ(?)に変身し、いつも丘の上の井戸に水を汲みにいっていたジャックとジルは、鈴木海花さんの筆によって、ロマンチックなラブロマンス物語のヒーローとヒロインにしていただけました。
他のキャラクター達もそれぞれに、素晴らしいストーリーを演じることができて、さぞかし喜んでいるに違いありません。

この本を名付けて、オサムズ・マザーグースの「ベッドタイム・ストーリー」。あなたが、夜おやすみになる前に、ひとつづつお読み下さい。そして、その後に見るあなたの楽しい夢の中で、彼らも一緒に遊んだり話したりして、あなたの親友の仲間に加えられることを願っています。

おやすみなさい。

原田 治