OSAMUGOODS COMPANY

OSAMU'Sマザーグースのキャラクター達が、9編の楽しい物語の主人公になったスペシャルブック。
ファンなら誰もが枕元に置いていた本、『BEDTIME STORIES』をご紹介します。

● 恋のソーング・マシーン

鈴木 海花

P.218-224

帰り道、二人はピートのソーダ・ファウンテンに寄った。ピートは街の若者たちにコークを売るだけでなく、彼らの良き相談相手でもある。店は学生たちでにぎわっており、少し待ってからやっと奥の方に席をとることが出来た。ジルは言葉少なにブレスレットを見つめ、幸せそうな様子をしていたので、ピートは注文の飲み物を置くと、気をきかしてすぐ向こうへ行ってしまった。

「急がしくて、ずっと君と話してなかったなぁ。」クラッシュド・アイスの沢山入ったルートビアをストローでかき混ぜながらジャックが言った。「ぼく専属の批評家としては、最近の記事をどう思う?すっと読んでくれた?」それを聞くと、ジルの顔がさっと曇った。
実は、ジルは最近のジャックの書く記事が以前のように好きになれないでいるのだ。まるで週刊誌の記事のように、無節操に人の興味をあおり、使われている表現も大げさなわりには平凡に思われた。

氷が溶け、手が冷たくなるのもかまわず、グラスを両手に固くにぎりしめたままジルは迷った。もしかしたらこの幸せな午後を、自分が台無しにしてしまうのではないか、と恐れたからだ。しかしやがて顔を上げると、ジルは自分の感想を正直に、誠意をこめた言葉でジャックに伝えた。
ジャックはそれを聞くと、一瞬虚をつかれたようにジルを見つめ、すぐ目を伏せると「そう。」と言ったきり、黙りこんでしまった。じっと動かない肩の線が、下手なデッサン画のように不自然でぎこちなく見えた。
ーーーああ、あたしがすべてをぶちこわしちゃったんだわ、ほんの十分間でいい、時間をもとにもどすことさえ出来たら……ジルは何か言おう必死に言葉を捜したが、あせるばかりで、どの言葉も試してみる勇気が出なかった。全身の皮膚が、ジトジトした冷たい膜に変わったような不快感と後悔がジルを打ちのめした。

「クリスマス休暇に入ったらすぐに、フロリダへ行くよ。今年はあっちでクリスマスを過ごすことになりそうなんだ。」アボット家の門のそばまで来ると、ジャックはそれだけを言って、帰って行った。ジルが何か言う間も無かった。このまま行ってしまうなんてーーー「ジャック!」たまらなくなってジルは叫んだ。ジャックが足をとめて振り返った。
「あの、あの、プレゼントをありがとう。」言いたいことが沢山あるのに、それだけしか言えなかった。ジャックは無言のまま片手を上げると、また家に向かって歩き始めた。ジルの目に、今まで知らなかった悲しみがこみあげた。ジャックのブルーのスウェーターが、黄昏時の不思議な青さに溶けこむように消えてしまうまで、ジルはそこに立ちつくしていた。

クリスマス休暇がくると、ジルは毎日町の食料品店でくたくたになるまで働いた。そうしていると、ジャックとのことも少しは気がまぎれたし、みんなに少しでも立派なプレゼントを贈るために、できるだけ沢山アルバイトをしたいと思っていたのだ。

十二月二十四日の朝、ジルはフラッシュ家の堂々とした玄関のベルを鳴らした。庭師のベンが出てきて「おんや、あいにくと坊っちゃまも誰もおいでになりませんなぁ。」と言った。
「いいんです、あのこれをジャックの部屋に置いといてもらえませんか?」ジルは、一番大切にしていたグリーンの紙にていねいに包んだプレゼントを差し出した。ベンは日焼けした大きな両手で、そっとその包みを受け取った。

年が明け、学校が始まった日の夕方、ベルの音にドアを開けると、ジャックが立っていた。
「ジル、湖まで、またエボニーを運動につれて行くとこなんだ。少し寒いけど、もし良かったら一緒に来てほしい。」湖に着くまで、二人はほとんど口もlきかずただ黙々と歩いた。
すっかり凍った湖の上は落ち葉が散らばり、刻々と夕暮れが濃さを増す冬景色の中には、ほとんど人影が無かった。エボニーを鎖から離してやると、ジャックが言った。
「ジル、プレゼントをありがとう。あの、万年筆、カードも名前が無かったけど、すぐに君がくれたんだって分かった。」ジルはただうなづくだけで、何も言えなかった。ジャックが行ってしまったあの夕暮れからの淋しさが、いちどきに心あふれて、一言でも口をきこうものなら、泣き出してしまいそうだった。
「ジル、ごめんよ、あの時あんな風に行ってしまって。君をひどく傷つけてるって分かってたのに、自分のことだけでいっぱいで、どうにも出来なかった。ぼくの書いたものについて君が言ってくれたことは、みんな本当だ。君だけが言ってくれた。ショックだったんだ、みんなのおだてにのって、ただ人目を引く記事ばかり書くようになっているのに気付くのが恐かったんだ。君にああ言われて、ぼくは自分のことがたまらなくいやになって、どうしていいか分からずあんな態度をとってしまったんだ。フロリダにいる間、ずっと君のことを考えてた。そして分かったんだ、君のこと、どんなに好きかってことが…」

刻々と冷えてゆく空気の中で、ジャックの言葉が熱い光線のようにジルの全身を走った。やがて微笑みが唇にのぼってきて、ジルの顔を明るくした。
ジルにもまた、ジャックに言うことがあった。
そして今、勇気を出してそれを言ってしまうことが出来たーーー
「私もよ、ジャック。ああ、もうずっと前から、あなたが何も知らない前から、あたし、あなたのことが好きだったの。去年の冬…」

 

OSAMUGOODS STORYより「OSAMUGOODS BEDTIME STORIES」

ー あとがきより ー

マザーグースのうたをテーマに、OSAMU GOODSのキャラクター達が生まれてから、早くも十年近く(サイト編集部注:この本が出版された1984年時点で)たちました。

皆さんに可愛いがっていただいた彼らも、すこしずつ生長したようです。
このたびは、彼らのひとり一人を主人公にして、楽しい物語を書いてもらうことになりました。

たとえば、いつもへいの上から転落ばかりしていた、あのハンプティ・ダンプティは、安西水丸さんのハードボイルド・タッチによって颯爽たるダンディ(?)に変身し、いつも丘の上の井戸に水を汲みにいっていたジャックとジルは、鈴木海花さんの筆によって、ロマンチックなラブロマンス物語のヒーローとヒロインにしていただけました。
他のキャラクター達もそれぞれに、素晴らしいストーリーを演じることができて、さぞかし喜んでいるに違いありません。

この本を名付けて、オサムズ・マザーグースの「ベッドタイム・ストーリー」。あなたが、夜おやすみになる前に、ひとつづつお読み下さい。そして、その後に見るあなたの楽しい夢の中で、彼らも一緒に遊んだり話したりして、あなたの親友の仲間に加えられることを願っています。

おやすみなさい。

原田 治