OSAMUGOODS COMPANY

OSAMU'Sマザーグースのキャラクター達が、9編の楽しい物語の主人公になったスペシャルブック。
ファンなら誰もが枕元に置いていた本、『BEDTIME STORIES』をご紹介します。

● 名探偵パンプティ・ダンプティ登場
  シュガー・ドーナツ殺人事件

 安西 水丸

P.232-244

ハンプティ・ダンプティ探偵事務所。名探偵はまだベットの中だ。今日は相棒のサルがやってくる。サルこと、カッカ・サルバドーレはボクサーくずれのシシリアン。気はやさしくて力持ちといったところが並はずれているのがこの男の欠点。ついでだが、かなりの色男であることをつけ加えておく。

コーヒーをすすり、パイプをふかしていると、ドアをたたき割るようにしてサルがやってきた。
「ドーナツ屋の娘が消えたって、なんか甘ったるくなりそうだな」
入ってくるなり、サルは甘ったるそうな口つきをする。
「コーヒーどうだ」とパンプティ。
「まず、その娘が消えたっていう日の近く、娘とベタついてたっていう小僧から洗ってみるか」
サルは窓に向かってカンツォーネをうなり出す。この男、音楽といったらカンツォーネしかないと思っている。やたら両手をひろげ、大声を張りあげる。

そんなところへ、スミス氏の秘書、マーガレットが、色っぽい肢体をくねらせてはいってきた。
「すてきなお声よ」
なんて言ったもんだから大へん。サルの声はますます手におえなくなる。彼女はハンド・バックから小切手を出す。一〇、〇〇〇ドル。前渡金ということだ。
「スミス社長にご用の時はわたくしに」
彼女は会社の電話番号をメモ用紙に書く。
「あのう、近々時間つくれませんか、ちょっと気にいった店があって」とハンプティ。
マーガレットはOKと言ったようなウインクをすると、カツカツと靴音を遠ざける。サルはハンプティのベット・ルームで、まだカンツォーネをうなっている。

聞きこみはメリーのボーイ・フレンド、ポールからはじまった。ポール・ランカー。彼はこの秋からニューヨークの大学に籍をおいている。メリーとは、ハイスクールの先輩になる。メリーが、ミス・ハイスクールに選ばれた時、彼は彼女のパレードするオープン・カーの先導をオートバイでやった。そしてその後二人は度々デートをするようになった。メリーに想いをよせていた男どもはかなりいたので、ねたみの目がポールに集中したのは当然だ。メリーが失踪した日、二人は60ストリート、レキシントン通り(アベニュー)でウッディ・アレンの映画を観た。その後セントラル・パークを散歩。それからコーヒーを飲んだ。日暮れ時、プラザ・ホテルの角で別れた。
「メリーちゃんホントにどうしちゃったんだろう」
突然、探偵の訪問を受けたポールは大あわてだ。それでも心配そうな顔で、当時の模様をアレコレと話してくれる。メリーが失踪した翌朝早く、ポールは大学のテニス部の合宿でコネチカットのテニス・コートに参加している。
「たぶんシロだな」
ハンプティがポールと別れると、ちょうどランチ・タイムになった。46ストリート、6通り(スイックスアベニュー)のチャイニーズ・レストランにはいる。この時刻のレストランはどこもいっぱいだ。
「ハーイ、ハンプティ」
呼ばれてふりかえると、ガール・フレンドのジェーンがいる。会社の上役らしき男といっしょだ。
「紹介するわ、こちら、ダン・オースチン。ドーナツ会社のエリートさんよ」ときた。
ドーナツと聞いてハンプティもググッとくる。
「もしかして、アンクル・スミスの」
「そうよくご存じね、アンクル・スミスのジュガー・ドーナツをごひいきに」
ジェーンはおどけてみせる。それにしてもジューンとは久しぶりだ。不思議と仕事にありつけるとジェーンとこんな出合いになる。美しいマロン・ブラウンの髪を肩までのばしている。このドーナツ屋のエリートとはどんな関係なんだ。などと思っていると、ワイングラスの老酒が足の方からジワーッときた。いつだったか、いつだったか、これに足をとられて階段からころがり落ちたことがある。気をつけろハンプティ・ダンプティ。酔いざましにはバドワイザーがいい。

夜、シャワーを浴びて、ベッドの上でボンヤリと想いにふけっていると、ポールを尾行していたサルから電話がはいった。ポールがアパート近くの公園でおそわれた。スパナのようなもので後頭部を殴られ、あわや窒息死されそうになったという。
「窒息?凶器はなんだ、ヒモか、ゆで玉子か」
「それが、とんでもないもので」
「どんでもないもの」
「ドーナツよ、シュガードーナツ」
「なにっ、ドーナツ」
「おそったのは、なにっ三、四人、でっ、一人は捕えた、よしっ、しめあげろ!」

ハンプティ・ダンプティは、あわてて服を着替えると、ダウン・タウンのサルのアジトに急行する。十一月の風が頬にいたい。コートの衿を立てる。くっきりと月が出ている。車(タクシー)から軽快なジャズが流れる。月が車(タクシー)の窓を追う。青い光をはなっているエンパイヤー・スティト・ビル。今夜の月はエンパイヤーによく似合う。

ダウン・タウン、イタリー街にあるサルのアジト。ハンプティは古ぼけた赤レンガの建物のドアを押した。怪しげな声のするドアを尻目に五階まであがる。フーッと一つ、大きくため息。グリーンのペンキを塗りたくったドアをノックする。

サルがポールをおそった仲間の一人をしめあげている。男は椅子にグッタリと腰を落し、顔はすでにフランケンシュタインのようだ。
「おいやりすぎはまずいぜ」
「なにちょっと可愛がっただけだよ」
ボクサーくずれのサルには程度といったものがない。
「それで吐いたのか」
「それがどうもスッキリしないんだ」
サルは男の方をふりむく。男はギクッと顔をあげると椅子にしがみつく。
「私ホントになにも知らないんで」
「この野郎、ワタシってガラじゃねえだろう」
「でもわたし子供の頃から母にワタシって」
と、そこまで言いかけると、サルのハンマーのようなゲンコツが落ちる。
「おい、そこのハンマーとってくれ」
サルは部屋の隅っこにあるほんもののハンマーを指す。
「どうするんだ」
「こいつの脳天、ぶち砕いてやる」
ハンプディ・ダンプティはゆっくりと部屋にあるハンマーをサルに手わたす。
「ちょっ、ちょっと待って下さい、話します、話します、でもホント、相手の顔は知らないんで、命令したのはドアの、いや、ついたての向う側にいたんで、女ですよ声は、年増女の声ですよ、ありゃ」
「女?」
ハンプティとサルは一瞬顔を見合わせる。
「ウイスキーやるか」とサル。
「バーボンがいい」とハンプティ。
ハンプディ・ダンプティは、サルの差し出したバーボンのボトルをとると、テーブルの上にグラスに半分ほどを注ぎ、クッと喉の奥のほうにほうりこんだ。バーボンはハンプティの食道を直下、彼のよくふくらんだ腹をしめつけるように胃袋でストップする。
「先生方、わたしもう帰してくださいな、もうみんな吐いたんですから」
「ところで坊や、ポールの口につめこんだシュガー・ドーナツ、ありゃ、どういうつもりだ」
今度はハンプティ・ダンプティが聞く。
「そっ、それもその女が使えって言うもんで」
それを言い終わったと同時にサルのパンチが男のボディに炸裂した。男はグッタリと前のめりに倒れる。

翌朝、ハンプティ・ダンプティは、ワイルド・ターキィ(バーボン)の固りを頭部に残しながら目をさました。外は雨だ。マンハッタンに晩秋の雨とは粋なもんだ。街は鼠色に煙っている。もうすぐ雪がやってくる。こんな日はなにかイヤなことが起こりそうだ。昨日から妙にジェーンのピーチ・パイが気にかかる。電話が鳴った。サルではなくドンマイ刑事からだった。
「ジーザース・クライスト」
ジェーンが死んだ。

 

OSAMUGOODS STORYより「OSAMUGOODS BEDTIME STORIES」

ー あとがきより ー

マザーグースのうたをテーマに、OSAMU GOODSのキャラクター達が生まれてから、早くも十年近く(サイト編集部注:この本が出版された1984年時点で)たちました。

皆さんに可愛いがっていただいた彼らも、すこしずつ生長したようです。
このたびは、彼らのひとり一人を主人公にして、楽しい物語を書いてもらうことになりました。

たとえば、いつもへいの上から転落ばかりしていた、あのハンプティ・ダンプティは、安西水丸さんのハードボイルド・タッチによって颯爽たるダンディ(?)に変身し、いつも丘の上の井戸に水を汲みにいっていたジャックとジルは、鈴木海花さんの筆によって、ロマンチックなラブロマンス物語のヒーローとヒロインにしていただけました。
他のキャラクター達もそれぞれに、素晴らしいストーリーを演じることができて、さぞかし喜んでいるに違いありません。

この本を名付けて、オサムズ・マザーグースの「ベッドタイム・ストーリー」。あなたが、夜おやすみになる前に、ひとつづつお読み下さい。そして、その後に見るあなたの楽しい夢の中で、彼らも一緒に遊んだり話したりして、あなたの親友の仲間に加えられることを願っています。

おやすみなさい。

原田 治